日本大学生産工学部 土木工学科日本大学生産工学部 土木工学科

ドボクの研究

研究クローズアップ!

研究クローズアップ! /その4

ベトナムの水環境改善に貢献する
国際プロジェクトを推進

環境工学研究室

森田 弘昭特任教授

日本の下水道技術を、水質公害に悩む途上国で生かす
1950~60年代、日本では戦後の復興と急速な経済成長に伴い、全国で深刻な水質公害が発生しました。そこで国を挙げて下水道整備に取り組んだ結果、川や海の水質は劇的に改善。下水道の整備・管理技術も世界最高水準を誇るまでになりました。
この技術と経験と技術を生かして、かつての日本と同じような公害に悩む途上国の水環境改善への貢献をめざすプロジェクトが、産官学の連携により進められています。
生産工学部土木工学科の森田弘昭教授は、国土交通省に籍を置いていた2009年より、この国際プロジェクトを推進する委員会「GCUS:Global Center for Urban Sanitation(下水道グローバルセンター)」のリーダーとして活躍しています。
GCUSでは、東南アジアのさまざまな国での現地調査を行い、プロジェクト実施の候補地をベトナムと定めました。
「ベトナムは近年、大変な勢いで経済発展し、超高層ビルや立派なリゾートホテルなどの建設が進む一方、下水道事情は劣悪で、川や海の汚染や道路の浸水被害はひどいものでした。そこで我々はベトナム政府の人たちに下水道整備の必要性を粘り強く説明し、5年以上かけて理解を得たのです」

下水道事情が劣悪なベトナム都市部では、雨が降ると道路の浸水が頻発する。

国際協力事業で大切なのは、相手国の目線での提案
ベトナムの都市は激しい渋滞が慢性化しており、道路を上から掘る下水道工事を行うことは困難でした。そこでプロジェクトチームが提案したのが、地中にまず縦坑を2本掘り、それをつなぐように横向きに掘り進めて下水管を埋設していく「推進工法」という土木技術です。
GCUSでは、まず2014年にベトナムの事情に合わせた推進工法の基準を策定し、最初にビンズオン省という場所で小規模な工事を手掛けました。その2年後の2017年には、大都市ホーチミン市で100億円を超えるビッグプロジェクトに漕ぎつけました。
「国際協力事業を進めるうえで大切なことは、単に技術を売るのではなく、相手国の目線で考えた提案を行うこと。
私たちは工事現場の見学会を開いたり、日本とベトナムの企業が対等に出資する下水管の製造会社を設立したり、現地の人にプラスになるさまざまな取り組みを実行しました。また、我々自身も産官学の多様なスタッフからなる混成チームですから、日本人同士で情報を共有することも大切です」と森田教授は国際プロジェクト成功のポイントを語ります。

森田教授がリーダーを務める国際協力事業として行われた、ベトナムにおける下水道整備工事の様子。

"国づくり"に貢献する手応えも実感できるはず
森田教授らは下水道整備の役割や効果を明らかにするために、整備のビフォアとアフターの変化を詳細に記録しています。これは川の水質などの化学的データだけでなく、川の両岸の景観や街並みがどのように改善されたかといったことまで含みます。
こうした下水道による水環境全体の改善効果を明確化する活動では、森田教授の研究室に所属する学生たちの力も欠かせません。たとえば現地から持ち帰った汚染河川の水サンプルの水質分析は学生が担当。そのデータをもとに卒業論文を作成する学生もいるなど、ベトナムのプロジェクトと大学の教育・研究は、互いを補完する形で密接に関わっています。
また、今後はベトナムを学生が訪ね、現地の水環境事情や工事の実際に触れてもらうことも考えているとのこと。
「こうした活動に関わることで、学生は持続的な下水道整備・経営の具体的な手順を学ぶとともに、国際感覚を養うことができるはず。また、『ベトナムの国づくり』に関わる手応えや喜びをも味わえるのではないでしょうか」と森田教授。
今後の目標は、ベトナム以外の国にも同様のプロジェクトを展開していくこと。それが実現したとき、森田教授の指導を受けた若き土木エンジニアたちが、プロジェクトの中心メンバーとして活躍しているかもしれません。

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